AIの歴史「人工知能」という言葉の誕生

現在はAI第三次ブームと呼ばれることが多いですが、AI研究の歴史を振り返り、その中の主要な研究や出来事を幾つか紹介して行きます。

AIの歴史を紐解くため当記事では、『人工知能』という言葉を誕生させた研究者達と、彼らが何を目指したのかを説明します。
Artificial Intelligence(人工知能)』という言葉は、ジョン・マッカーシーら4人の研究者による1955831日の研究資料で初めて登場したとして知られています。日付は50年以上前で、日本では東名高速道路や東海道新幹線が開通し、初めて東京オリンピックが開催された頃の話です。

AIが誕生したときにどのような議論が行われたのか、この研究会資料を翻訳して紹介したいと思います。
AI」及び「人工知能」に関する情報は山ほどインターネット上で見つかりますが、様々な原文に関する日本語での情報が少ないため、海外の原文に基づいた少し他とは違う情報を織り交ぜた記事にしています。

人工知能という言葉を生み出した先人を知ることで、「何がAIで、何がAIでは無いのか判断が難しい現状」を整理するヒント、及び今後のAI発展の方向性が見つかるかも知れません。

4人の研究者がスタートしたAI

この研究会の発起人は、以下の4人でした。
4人全員が、人口知能及び世界の発展に多大なる貢献をした偉大な人物ですが、研究会当時は27歳~39歳と皆若く、人工知能という言葉が「優秀な若者達によって提唱された」ことを理解すると、当時の彼らが持っていたであろう想いや熱量を伺い知ることができるのではないでしょうか?

ジョン・マッカーシー
(John McCarthy, 1927年9月4日~2011年10月24日、研究会当時は27歳!)は、アメリカ合衆国の計算機科学者で認知科学者。マービン・ミンスキーとならぶ初期の人工知能研究の第一人者。「人工知能; Artificial Intelligence」という用語は彼が1956年のダートマス会議のために1955年に出した提案書で初めて使用された。

● マービン・ミンスキー
(Marvin Lee Minsky, 1927年8月9日~2016年1月24日、研究会当時は28歳!ジョン・マッカーシーと同い年)は、アメリカ合衆国のコンピューター科学者であり、認知科学者。専門は人工知能 であり、マサチューセッツ工科大学の人工知能研究所の創設者の1人。初期の人工知能研究を行い、AIや哲学に関する著書でも知られ、「人工知能の父」と呼ばれる。

ナサニエル・ロチェスター
(Nathaniel Rochester, 1919年1月14日~2001年6月8日、研究会当時は36歳)は、IBM701を設計し、最初のアセンブリ言語を書き、人工頭脳分野の創設に参加した、アメリカ合衆国の計算機科学者。

クロード・エルウッド・シャノン
(Claude Elwood Shannon, 1916年4月30日~2001年2月24日、研究会当時は39歳)はアメリカ合衆国の電気工学者、数学者。20世紀科学史における、最も影響を与えた科学者の一人である。 情報理論の考案者であり、情報理論の父と呼ばれた。情報、通信、暗号、データ圧縮、符号化など今日の情報社会に必須の分野の先駆的研究を残した。

「人口知能」が取り組むべき課題

私なりに意訳した文章は以下の通りで、4人が「人工知能が取り組むべき課題をどう捉えていたか」を詳細に知ることができます。
50年以上も昔だったにも関わらず、人工知能が目指すべき姿が非常に良く整理されていることに感銘を受けます。
研究会資料へのリンクはこちらとなります。(外部サイト)

【研究会資料の意訳】

●来年1956年夏のダートマス会議に『人工知能』に関する研究を持っていくために、皆で一緒に勉強する。

●当研究は、『あらゆる学習や知性による造作は原則的に正確に描写されることが可能であり、その正確な描写が、学習や造作をシミュレートする機械を生成可能とする』、という推論に基づいて進めていく。

●機械に対し、以下のような試みが行われることが想定される。

  • どのように言語を使わせるか
  • どのように抽象的概念や発想を形成させるか
  • 現在人間に委ねられているような問題をどのように解決させるか
  • どのように機械自身を更新させるか

●以下は、人工知能が取り組むべき課題の幾つかであり、担当を決めて研究に取り掛かろう。

  1. 自動処理コンピューター
    もし機械が何らかの仕事をこなせるのであれば、機械を動かすための自動演算処理がプログラム化できているはずである。 ただし現在(1955年時点)のコンピューターの処理速度や情報記憶能力は、人間の脳が持つ高度な機能をシミュレートするためには 不十分であると考えられる。ただし主要な問題はコンピューターの能力不足ではなく、我々人間自身が、我々が持つ能力をフ ル稼働させたとしても、人間の脳が持つ機能をプログラムに落とせない点である。
  2. どのようにコンピューターが言葉を利用できるようにプログラムするか
    人間の思考の大半は、理屈付けや推論のルールに従って言葉を操作することで成り立っているのではないか、と推測される。この観点に立てば、思考の一般化は初めて見聞きする言葉を受け止める機能や何らかの法則で構成されることになり、それによって新しい単語を含む文章が意味を持ち、その他の文章によって意味が推測されることになる。このようなアイディアはこれまでに正確に定式化されたことは無く、また事例が試されたことも無い。
  3. ニューロンネッツ(=ニューラルネットワーク、神経細胞網)
    発想や概念を形成させるために、どのようなニューラルネットワークが構成可能であるのか。これまでに多くの理論的かつ実証的な研究が多数の研究者達によって行われ、部分的な結果が得られている。しかし、より理論的な取り組みが必要である。
  4. 計算量に関する理論
    もし我々が良く定式化された問題を与えられた場合、解を得るための一つの方法は順番に全ての可能性を試してみることである。ただしこの方法は非効率であるため、無用な計算を排除するための手段や工夫を持つべきである。この課題に関する部分的な研究結果は、何人かの研究によって得られている。
  5. 自己改善
    おそらく真に知的な機械というものは、自己改善という説明がふさわしいような行動を取ることになる。これまで自己改善に関するいくつかのアイディアが提案されており、今後の研究に資する。また、自己改善に対しては抽象的な研究も可能ではないかと思われる。
  6. 抽象的概念(複数の種類の犬の写真を見て、これは全て「犬」であると判断できるような、「犬」とはこういうものである、という漠然とした特徴のことを「抽象的概念」と考えると理解しやすい)
    抽象的概念の幾つかは明確に定義可能であり、明確に定義されない場合もある。抽象的概念の分類への直接的な試みや、感覚的データ等(視覚、聴覚等)から抽象的概念を機械に形成させる手法への試みは価値がある。
  7. ランダム性と創造性
    とても面白そうだが未だ不完全な推論となっているのは、「創造的思考力」と「非想像的思考力」の違いはランダム性の導入による、というものである。ランダム性は効率的な思考実現のために、故意に引き起こされると考えられる。言い換えれば、知識や経験に基づく推測又は直感は、意図されたランダム性を含んでおり、そのランダム性が無ければ、思考は整然とした固定的な思考から抜け出せない。

わかりやすい文章となるように努力したつもりですが、それでも内容は難しいですね。
ただし1955年に整理されたこれら「人工知能が取り組むべき課題」が、その後の人口知能研究の発展の方向性を見事に言い当てていることに驚かされます。

「人口知能」研究の7つの分野

上記7つの研究課題を、言葉をさらにわかりやすくかみ砕いて整理したものが以下となります。

  1. 人工知能を実装しうるコンピューター
  2. 初めて見聞きする新しい言葉の意味も推測可能な、言語処理
  3. 発想や概念の形成が可能なニューラルネットワーク
  4. 計算量の効率化
  5. 自己改善
  6. 抽象的概念の把握
  7. 新しいアイディアの発想

2020年現時点まで続いて来たAIの第一次、第二次、第三次ブーム(現在)は、これら研究課題の幾つかに解決策が見出されたことによるブレークスルーによって引き起こされて来た、と考えられるのではないかと思います。